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東京地方裁判所 平成6年(ワ)2844号 判決 1995年9月29日

東京都文京区千石一丁目六番二四号 徳川マンション八〇一号

原告

伊藤誓英

右訴訟代理人弁護士

藤田謹也

土居久子

東京都世田谷区船橋一丁目五番八号

被告

有限会社ペスカ

右代表者代表取締役

小峯淳

右訴訟代理人弁護士

細田貞夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

原告が、別紙商標目録記載の商標につき、商標登録出願により生じた権利を有することを確認する。

第二  事案の概要

一  本件は、別紙商標目録記載の商標の登録出願をした原告が、現在の出願名義人となっている被告に対し、被告は偽造書類を利用して出願名義人の変更届を行ったものであるから、右届出は無効であるとして、原告が右出願により生じた権利を有することの確認を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告は、電気製品及びその部品の輸出等を目的とするフューチャー・エレクトロニクス株式会社(「フューチャー社」)の代表取締役であるが、新たに食品の輸入販売会社を設立することを企図し、友人である小峯淳を誘い、平成四年七月三一日、同人と共に魚介類製品の輸出入・販売等を目的とする被告を設立し、小峯が代表取締役に、原告が取締役にそれぞれ就任した。

2  被告は、タイ料理であるトム・ヤン・クンの風味をベースにしたスナック麺(「本件商品」)をシンガポールの販売店から輸入し、国内で販売する業務を開始したが、これに先立ち、原告は、本件商品に使用するため、平成四年七月二〇日に別紙商標目録一記載の商標(「第一商標」)について、また翌二一日に同目録二記載の商標(「第二商標」。なお、両者をあわせて「本件商標」という。)について、それぞれ自己を出願人として商標登録の出願(「本件出願」)を行った。

3  平成五年六月に至り、原告と小峯の間で、被告の共同経営を解消する話が持ち上がり、原告が被告の経営から手を引くこととなったが、これに伴い、両者の間で被告の業務の引継ぎ、金銭の清算等の交渉が進められた。

右交渉が進行するなか、小峯は、平成五年一〇月七日、本件出願に関し、原告名義の印鑑変更届を作成して特許庁長官に提出するとともに、翌八日、原告が本件商標登録出願により生じた権利を被告に譲渡した旨記載した譲渡証書を添付した商標登録出願人名義変更届を特許庁長官に提出し、受理された。

三  争点

1  原告は、平成五年一〇月四日、小峯に対し、商標登録出願人の名義を被告に変更する旨許諾したか。

(被告の主張)

(一) 小峯は、原告と共同して本件商標を考案し、これを被告の名義で登録するよう原告に依頼したものであり、原告もこれを承諾していた。そのため、被告は、原告が一時立て替えた本件出願費用を原告に支払い、その後、小峯と原告は、右費用の他に被告の定款認証費用や本件商品のサンプル購入費等を被告の設立費用であるとして、それぞれの出資割合に従って被告に支払っている。小峯は、本件出願が原告名義でなされていたことは全く知らなかった。

(二) 原告と小峯の間で共同経営の解消に伴う清算交渉が進行していた平成五年九月末になって、小峯は、原告と事実上離婚状態にあった原告の妻から本件出願が原告名義でなされていることを知らされた。そこで、小峯は、同年一〇月四日、原告に電話を架け、「本件商標が被告名義になっていないのはどうしたことか。背任罪として告訴も考える。」と詰問したところ、「本件商標はもともと被告名義とすべきだったのだから、被告名義とすることについては小峯に一任する。」旨の回答を得た。

(三) したがって、本件出願名義人の変更届は原告の許諾に基づくものであり、その際、原告は本件出願により生じた商標登録を受ける権利を被告に譲渡したものである。

(原告の主張)

(一) 原告と小峯は、共同経営解消後の処理を巡り平成五年七月ころから関係が悪化し、互いに電話を架け合うこともなく連絡は専ら文書で行っていたのであるから、小峯が本件出願の名義変更の件についてだけ電話で苦情を申し入れたとの主張はいかにも不自然である。

また、小峯からの文書で本件出願について触れたものは、平成五年一〇月二九日にファックスで送られてきたものだけであり、それ以前に小峯から本件出願に関し何らの要求もなかった。一〇月四日の電話で原告が名義変更を許諾したのであれば、同月一九日ころ原告に送られてきた文書でこの点の具体的記載がなされるべきであるし、小峯が名義変更手続を完了したとたん、「商標登録出願控えを至急当方へ送付願います。貴方に頼んでから三ヶ月が経過します。」旨記載しているのは、原告との間であたかも以前から本件出願に関する話があったかのように作出する必要があったことを意味している。

したがって、小峯が、平成五年一〇月四日、原告に本件出願名義について電話で苦情を申し入れた事実はない。

(二) 仮に、小峯が原告に苦情を申し入れた事実があったとしても、問題の平成五年一○月四日の時点では、原告の被告に対する債権の処理を巡り、小峯との関係は険悪な状況にあり、原告が小峯の要求に対し何の条件も付けずに名義変更を許諾することはありえない。また小峯は、名義変更手続が完了した平成五年一〇月終わりから一一月初めになって、原告に対し譲渡証書の作成を要求しているが、これは、自身の偽造行為を追認するための書面がどうしても必要であったからにほかならない。

したがって、原告が小峯に対し、本件出願人の名義変更を許諾したり、本件出願による商標登録を受ける権利を譲渡した事実はない。

(三) そもそも、本件商標は、被告だけではなくフューチャー社も使用することが予定されていたものである。また、原告は、被告の実際の運営は自己に委ねられていながら代表権を取得しなかったため、自己が考案した本件商標の権利を担保するため原告の個人名義で本件出願を行ったものであり、事前に小峯も了解し、出願後も小峯に報告している。

被告から本件出願費用を受領したのは、被告が本件商標を使用する対価として受領したものであって、この点も本件出願後に小峯に告げており、同人から何らの異議も出ていない。また、被告において右費用を設立費用として扱ったのは、会社の経費として認められるため、税金面で有利になると判断したからに過ぎない。

したがって、小峯が、本件出願が原告名義でなされたことを知らなかった筈がない。

2  原告が、商標登録出願により生じた権利の存在の確認を求めることは、信義則に違反するか。

(被告の主張)

本件出願は、被告名義で行われる予定であったものが原告名義で行われたものであるところ、原告は被告の取締役の地位にあるのに、右のような行為によって本件商標の商標登録を受ける権利を取得することで自己を利し、他方、被告に本件出願費用を出捐させながら、被告の本件商標について商標登録を受ける権利を喪失させて被告に財産上の損害を加えたものであって、有限会社法七七条の特別背任罪に該当するものである。

したがって、本件請求は、公序良俗に違反する結果を是認する裁判を求めるものであり、本件請求は信義則に反し認容されることができないものである。

(原告の主張)

右主張は争う。

そもそも、本件商標の登録出願を行ったのは原告であり、商標法が登録主義を採用していることからすれば、原告に出願中の権利があるのは当然であり、被告が本件商標の登録出願中の権利を主張すること自体失当である。

第三  当裁判所の判断

一  右各争点を判断する前提として、本件の紛争に至る事実経過についてまず検討する。

前記争いのない事実に、証拠(括弧内に掲記したものの外、甲七、乙一六の1、同一八、同一九、原告本人及び被告代表者尋問)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  被告の設立及び本件出願の経緯等

(一) 原告は、電気製品及びその部品の輸出等を目的とするフューチャー社を経営していたが、新たに食品の輸入販売会社を設立することを企図し、平成四年六月中旬ころ、大学時代からの友人である小峯に右会社の共同経営を持ち掛けた。小峯は、資金面の不安から当初難色を示したものの、両名が新会社を設立して共同して右事業を運営することとなった。

(二) 平成四年七月初めころ、両名は、原告が海外出張の土産として持ち帰った本件商品に目を付け、これを新会社における主力商品とすることとし、新会社の設立手続と並行して、本件商品の販売元であるシンガポールの訴外スーパー・コーヒーミックス社(「スーパー社」)との輸入取引の交渉を開始した。

原告と小峯は、本件商品の名称を「トムヤムヌードル」あるいは「トムヤンラーメン」とするとともに、これらを商標登録しようと考え、原告がその出願手続を進めることとなった。そこで原告は、被告の設立登記に先立ち、平成四年七月二〇日に第一商標について、また翌二一日に第二商標について相次いで商標登録の出願を行ったが、いずれも自己が商標登録出願人となった。

なお、右商標登録願には、原告が指定商品の販売を開始すべく準備中であり、平成四年七月に販売会社を設立する予定である旨の事業計画書が添付されていた(乙七の1の3、同七の2の3)。

(三) 右出願後の平成四年七月三一日、魚介類製品の輸出入・販売等を目的とする被告の設立登記がされた。そして、被告に対する出資口数六〇口(資本総額三〇〇万円)のうち、小峯が三一口(一五五万円)を、原告が二九口(一四五万円)を出資し、小峯が被告の代表取締役に就任したが、設立登記直後、貸付金の名目で被告から小峯に対し右一五五万円全額が、また原告に対し一〇〇万円が返還され、当座の運転資金は原告が負担した(乙二の1)。

また、被告の本店事務所はフューチャー社内におかれ、被告の業務の遂行にあたっては、フューチャー社の社員であった原告の妻や清水鉄雄が事務を行い、同社の設備が利用された。

2  本件出願後の経過

(一) 原告は、被告の設立登記手続費用や本件商品のサンプル購入費用等とともに出願用特許印紙代、出願用紙代等の本件出願費用三万四六〇〇円を当初支払っていたが、平成四年八月二八日、被告からこれらの費用合計額の支払いを受け、これと引換えに、特許印紙代、商標登録出願用紙代の領収証を被告に交付した(乙二の1・2、同三の1ないし8)。

そして、被告の帳簿では、本件出願費用は設立登記手続費用等とともに被告の設立費用として扱われ、右設立費用については原告と小峯が出資割合に応じて負担することとなり、小峯は平成四年九月二一日に、原告は翌年二月二六日に、それぞれ右金員を被告に支払った(乙一、同二の1・2、同八、同九)。

(二) 被告の設立手続に並行して進められたスーパー社との取引交渉がまとまり、平成四年八月一日付けで被告とスーパー社の間で本件商品に関する独占代理店契約書が交わされたが、同年九月二一日には、フューチャー社も本件商品の輸入が可能となる条項等を織り込んだ変更契約書が追加して作成された。なお、当初の契約書は小峯がサインしたが、変更契約書は原告がサインした(甲一五、一六、乙四)。

3  共同経営の解消合意後の経過

平成五年六月三〇日に至り、原告から小峯に対し、共同経営を解消したい旨の申し入れがあり、話し合いの結果、小峯が被告の事業を引き続き行い、原告は被告の経営から手を引くこととなった。

右話し合いの際、原告から共同経営解消に伴う事務処理の予定、方法について質問が出されたことから、被告は、平成五年七月九日、これに対する回答をファックスで送り、その後、原告と小峯の間では、原告の被告に対する持分の譲渡やフューチャー社の被告に対する売掛債権の処理等、主に金銭の清算に関して幾度となく文書等のやりとりが交わされた。しかし、被告が本件商品の輸入販売を継続するに当たり、原告が本件出願の名義人であることを前提とした本件商標の使用権限については、交渉の話題に上ることはなかった(甲二〇の1ないし3、乙一〇、同一五の1・2)。

4  印鑑変更届と名義変更届

(一) 小峯は、平成五年一〇月七日、市販の「伊藤」名の三文判を利用して原告名義の印鑑変更届を作成して特許庁長官に提出するとともに、翌八日、原告が本件商標登録出願により生じた権利を被告に譲渡した旨記載し、右「伊藤」名の三文判を押捺した譲渡証書を作成添付した第一商標及び第二商標についての各商標登録出願人名義変更届を同長官に提出した。

(二) その後、小峯は、平成五年一〇月末ころ、譲渡証書の見本と譲渡人欄や譲受人欄等が空白となった譲渡証書用紙を原告に送付して原告に対し本件商標についての譲渡証書の作成を要求し、一一月初めには原告に直接会って更に譲渡証書の作成交付を要求したが原告に拒絶された(甲一三の1・2)。

(三) 原告は、平成五年一一月九日、特許庁長官に第一商標及び第二商標につき各印鑑変更届と住居(居所)変更届を提出したが、翌年一月五日、先に被告の名義変更届が出されていることを理由に不受理処分がされた(甲一一の1・2、乙一七の2ないし6)。

二  争点1について

1  原告は、フューチャー社を経営する傍ら、当初渋っていた小峯を誘って新たに食品輸入販売会社として被告を設立しており、また、本件商品を被告の主力商品に選んだもので、本件出願に際して提出された事業計画書には、原告が指定商品の販売を開始すべく準備中であり、平成四年七月に販売会社を設立する予定である旨の記載がされていたこと、本件出願に先立って交渉が開始され、平成四年八月にスーパー社と締結された本件商品に関する独占代理店契約は、被告のみが契約当事者となっていたこと、また、原告が支出した本件出願費用は被告から原告に支払われ、被告においては本件出願費用は会社の設立費用として扱われ、原告と小峯は、それぞれ自己の出資割合に応じた金額を被告に支払ったことは、右一の1、2に認定したとおりであり、これらの点からすれば、原告と小峯は、被告名義で本件出願をすることを了解し合っていたものと認められる。

ところが、右一の3のとおり、被告の共同経営を解消することになり、そのための交渉がされる中で、小峯は、原告に依頼した本件商標の出願が被告名義ではなく原告名義でされたことを、平成五年九月末ころ原告の妻から聞かされて初めて知り、同年一〇月四日原告に電話を架け、被告の取締役としての忠実義務違反であり、背任罪で告訴することも考えると詰問したところ、原告はそれは困るとたじろいで、名義変更をしてもらって良い、一任すると答えた。そこで、小峯は、特許庁で出願人名義変更の手続きを相談し、右一4(一)のとおり、本件出願について印鑑変更届と名義変更届をした(以上、乙一六の1、被告代表者)。

右認定の名義変更をしてもらって良い、一任するとの原告の意思表示は、本件商標についての商標登録を受ける権利の移転と、そのための手続の授権の趣旨を含むものと解するのが相当である。

右認定事実によれば、本件出願についての印鑑変更届及び出願人名義変更届に添付された譲渡証書は、いずれも原告の許諾に基づいて作成されたものと認められる。

2(一)  原告は、フューチャー社も本件商標を使用する予定であった旨主張し、これに沿う供述をしているが、フューチャー社も本件商品の輸入販売をする予定であったのであれば、平成四年八月にスーパー社と交わされた契約書において、当初からフューチャー社が参画するのが自然であり、渋る小峯を誘って被告を設立する必要があったのか疑わしいことになる。原告は、被告の取締役として平成四年九月、フユーチャー社もスーパー社から本件商品を輸入することができるよう変更契約を締結し(甲一六)、その後フューチャー社がスーパー社から輸入した本件商品を被告に売渡す契約を結んでいるが(甲一七、同一八)、平成四年八月一日付けの独占的代理店契約書(乙四)には代表取締役である小峯のサインがあるのに、変更契約書(甲一六)には原告がサインしており、「右変更契約については全く関与していない。フユーチャー社と被告との売買契約は事後処理として同意した。」との小峯の供述に照らすと、当初からフューチャー社も本件商品の輸入販売を行う予定であった旨の前記供述は疑わしく、むしろ、原告は、後になって、何らかの思惑からフューチャー社も本件商品を取り扱うことができる手段を講じたものと解される。

したがって、原告が、本件出願時点で、フューチャー社も本件商標を使用するものと考えていたものと認めることはできない。

(二)  更に原告は、被告の実際の運営は自己に委ねられていながら代表権を取得しなかったため、自己が考案した本件商標の権利を担保するため原告の個人名義で本件出願を行ったものであり、原告名義で本件出願をしたことは、出願費用を本件商標の使用の対価として被告から受領する点も併せ、出願後に小峯に説明済みである旨主張し、これに沿う供述をしている。

しかしながら、出願費用三万四六〇〇円を本件商標の使用の対価として被告から受領したとの説明自体不自然の感は否めず、しかも、原告はその領収証を被告に交付していることからすると、当事者間では、被告が出捐すべき出願費用を原告が立替払したのでこれを被告が返済したと認識されていたものとみるのが素直である上、もし原告が、小峯に、自己名義で本件出願をしたことの説明をして両者の共通した認識になっていたとすれば、共同経営を解消する合意の後、金銭の清算について何度も文書のやりとりがされた中で、今後被告が本件商標の使用を継続するか否か、そのための条件をどうするかについて、原告と小峯の間で交渉の話題に上らなかったというのは、極めて不自然であり、原告の主張に沿う証拠は信用できない。

(三)  原告は、右一〇月四日の電話での許諾の事実を否認し、甲七号証及び原告本人尋問の結果中には、印鑑変更届、名義変更届が出されていることを知ったのは、平成五年一〇月半ばころ、本件出願についての審査結果を確認するとともに住居変更の手続を尋ねようと特許庁に電話した際、係官から教えられたのが最初である旨の部分があり(但し、原告本人尋問では、その段階では誰に名義変更されたかは判らなかったとし、甲七号証では、被告名義に名義変更されたことは判ったと食い違っている。)、また、本件出願が原告名義でされていることについて小峯から文句を言われたのは、同年一〇月末ころである旨の部分がある。

しかしながら、原告が平成五年一〇月半ばころ特許庁に電話を架けたことが事実としても、原告が妻との別居を開始し住居を移したのは平成四年一一月ころである(乙一六の1、弁論の全趣旨)から、原告が、それから一年近くたってから住居変更の手続を尋ねるために特許庁へ電話をしたというのも腑に落ちない点があるが、何よりも右電話で本件出願についての名義変更届がされていることを初めて知ったどすると、原告には晴天の霹靂であったはずで、直ちに、小峯に対しその事実を確認するとか、小峯の行為を疑っていたのであれば、その点を詰問する等の行為をするはずであり、ましてや、一〇月末ころ、小峯から本件出願が原告名義でされていることについて文句を言われたというのであればその際に、あるいは、前記一4(二)のように譲渡証書の作成交付を求められた際に、右の点を反問するとか逆ねじをくわせるということがあるはずなのに、そのようなことがあったと認められないのは何としても不自然であり、むしろ、原告は、小峯に対し出願人名義の変更を許諾したことを後悔し、実際に名義変更手続がなされているか確認するために特許庁に電話をしたもので、名義変更手続がされてしまっていたことは半ば予想したところであったので、小峯に対する確認も反問もなく、被告への名義変更届が何らかの理由で不受理となった場合に備えて、念の為前記一4(三)の印鑑変更届と住所変更届をしたものと疑わざるを得ない。

(四)  原告は、前記一4(二)のとおり、小峯が平成五年一〇月終わりから一一月初めに原告に対し本件商標の譲渡証書の作成交付を要求したのは、偽造行為の追認を求めるものであると主張する。

しかし、当初難色を示しながら原告の誘いに応じて被告の共同経営に乗り出した小峯が、一年程で原告から共同経営の解消を切り出され、更に原告名義で本件出願がなされていたことを知るに至り、原告に対する不信感を強めていたことは容易に想像することができ、原告から名義変更手続の許諾を得、その手続を終えていたとはいえ、電話による許諾であったことから、小峯としては原告の変心を危惧し、念のため右譲渡証書の作成交付を求めたものとの小峯の供述は納得できる説明であり、この点に関する原告の主張は採用できない。

三  以上の次第で、本件出願名義が原告から被告に変更され、本件商標についての商標登録を受ける権利が原告から被告に移転したことは、原告の許諾に基づくものと認められるから、原告の請求は理由がない。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 高部眞規子 裁判官 池田信彦)

商標目録

一 出願年月日 平成四年七月二〇日

出願番号 商願平4-141369号

商品及び役務の区分 第三〇類

指定商品 即席中華そばのめん、そばのめん、中華そばのめん

出願人 伊藤誓英

名義変更後の出願人 有限会社ペスカ

登録出願商標の構成 別図1のとおり

二 出願年月日 平成四年七月二一日

出願番号 商願平4-142400号

商品及び役務の区分 第三〇類

指定商品 即席中華そばのめん、中華そばのめん

出願人 伊藤誓英

名義変更後の出願人 有限会社ペスカ

登録出願商標の構成 別図2のとおり

別図1

<省略>

別図2

<省略>

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